「はじめまして。絶メシ調査隊広島支部隊員番号001の清水浩司と申します。大ファンだった『絶メシリスト』が広島でも行われると聞いて、一も二もなく志願した次第です。見た目はただのおじさんですが、胃袋は若干おじいさんの領域です。広島の絶対絶やしてはいけないイイ味とイイ味の染み出たお店の方々をお伝えすべく、誠心誠意がんばるぞう！」

「こんばんは、絶メシ調査隊です。本日は取材にやってまいりました」

「テールスープの取材じゃろ。スープ、だいぶええ具合になっとるで。見てみるか？」

「いきなり厨房入っちゃっていいんですか？　おお、コトコトいってますね。これが伝説のテールスープか……」

「ものすごく弱火で炊いてますね。これは何時間くらい炊いてるんですか？」

「朝の8時からじゃけえ、いつも10時間くらいは炊いとるね」

「この釜いっぱいで何人分あるんですか？」

「これで牛の尻尾5本分が入っとるんよ。だいたい1頭で4～5人分とれるけえ、ゴシニジュウで20～25人分かな？　ウチのテールはボリュームあるけぇね」

「ずっとスープの表面に浮いたものを取ってますけど、アク取りですか？」

「いやいや、これはアクじゃなくてニカワ。ウチは骨ごとテールを炊いとるけぇ、表面にニカワが浮くんよ。骨から出るゼラチン質で、昔は接着剤で使いよったね。ほら、手ェ出してみぃ」

「ニカワって牛の骨から取れるんですか!?　ほんとだ、すごくネバネバする！」

「アクは血の塊でね、そういうのは最初にガーッと炊いたときに出るけぇ、釜ごとひっくり返して洗い、肉も洗って、きれいな状態にしてまた炊きはじめるんよ。最初は強火で炊いて、そこからは小さい火でじっくり炊いていく感じじゃね」

「ゴホゴホゴホッ！　めっちゃコショウかけますね」

「いまコショウをバカバカかけたの見て、すごく辛そうって思ったじゃろ？　でも食べたら意外と辛くないんよ。スープの脂がコショウをコーティングしてくれるけぇね。これでネギを盛ったら、テール1人前できあがり！」

「早くその汁をすすってみたくてたまりません！」

「まず先にネギを沈めて、スープの余熱でネギがしんなりしたところを肉と一緒に食べるんよ。間違っても先にスープをすすらんこと。脂が表面をおおっとるけえ、先にスープをすするとヤケドするよ」

「あぶねえ……クチビルヤケド一直線でした」

「テールは骨ごと入ってるんですね。ああ、箸でつかむと肉がホロホロ崩れていく！」

「骨をつまんでブルブル震わせると、肉が勝手に取れていくよ」

「もうガマンできません！　ほぐれた肉をネギと合わせて……いただきます」

「ナニコレ！　信じられないくらいウマイ。肉もうまければネギとの相性も抜群。サイコー」

「尻尾の肉は固い肉じゃけど、炊くと柔らこうなるからね。でがらしにして捨てるのはもったいないけぇ、その直前で止めとるんよ」

「スープもそろそろ冷めてきたかな……クゥゥゥ、うますぎる！　表面を脂が覆ってるのに味はしつこくない。永遠に飲んでいたい。うまみエナジードリンクですよコレ！」

「ははははは。あれだけガバッと入ってたコショウも『どこにおるん？』って感じじゃろ。でもスープを飲むとコショウが身体に入るけぇ、あったまりますよ」

「あと、さっきテールの骨を横の皿に出したじゃろ？　その骨をくわえて、グーッと吸ってみんさい。甘めな汁が出てくるけぇ」

「テール＆ネギのマリアージュ、超濃厚なスープ……それに加えて、まだお楽しみあるんですか？　こうですか？」

「ナニコレ!?　骨から汁が出てくる！　これ、骨に染み込んでたスープですか？」

「それは骨の髄。その髄がスープの素で、これまで骨の繊維の間を埋めてたニカワが溶けたけえ吸えるようになったんよ。『骨の髄までしゃぶる』とよう言うけど、昔の人もこれを知っとったんじゃろうのぉ」

「骨髄の最後の一滴まですすり倒す。ここまで肉を味わい尽くしたのは初めてです！」

「（店の歴史を聞き終えて）……そっか、このテールスープは戦後広島の復興を支えてきたんですね。みんなこれを食べて精を付けて、また明日も頑張ろうって……」

「で、タンとシロはお義父さんの機嫌のええときに、好きなお客さんにウンもスンも言わず出すんよ。隣のお客さんがそれをくれって言ったら『おまえには10年早い！』って」

「そう、じいちゃんは25年前まで店に出て、レジに座って店内に目を光らせとって。じいちゃんに認められんとこの店にはおられんけぇ、お客さんが一番緊張しとったね」

「……なんとなく想像付くんですけど、良昭さん、このお2人どちら様ですか？」

「松美さんがデンスケの歴史を作ってきたことはわかりましたが、良昭さんはいつ店を継いだんですか？」

「継いだっていっても、小学校から店はずっと手伝っとるけぇね」

「なんやかんやいって、私も中学校1年生のときから店に出てますから。お客さんからも『昔はかわいかったのぉ～』『じいちゃんに似てきたのぉ～』って。ははははは！」

「（だんだん店内がカオス化している……）あ、良昭さん、去年の広島県観光連盟のポスターにもなってるじゃないですか！」

「ほうなんよ。観光連盟の人がお客さんにおって、『ポスター作るけぇ協力してえや』って言われて。写真撮るんじゃったらスーツ着んといけんのぉって思よったら、そのままでええって。これ普段着のままよ」

「モデルに選ばれたのが10人くらいおって、その中で『新聞に出すなら、この人がええ』って言ってくれた人がいて。その人が言うには『なんともいえん顔をしとる』って（笑）」

「広島の実家のオヤジ代表って感じですね。良昭さん、いま74歳でしたっけ？　お肌ツヤツヤだしお元気そうですよね」

「ネエ、私の年齢も聞いて！」

「え、いいんですか？　お母さんいくつです？」

「77！」

「私は52。今も化粧しとらんで、口紅しか付けとらんよ」

「えー、3人とも全然そんな齢に見えないですよ。やっぱりスープのコラーゲン効果ですかね。良昭さん、調子悪いところないんですか？　跡継ぎのこととか考えたりしないんですか？」

「わしにやらせぇっていうお客さんもおるけど、『そうはいくかい！』って」

「両親2人とも持病の1つや2つはありそうなのに、何ひとつ悪いところないんです。血圧も悪くないし、ピンピンしとるんです。腹立つじゃろ～？」

「腹は立たないです！　これは奇跡の親子として記念写真撮りましょう。3人とも近づいて……あー、いい笑顔だ……ハイ、チーズ！」